歌伴
昔、ピアノの仕事を始めた頃は、世の中にカラオケなんぞ無かった。なので突然「歌の伴奏」をさせられる事があった。
それで自分の知っている曲なら何とか誤魔化せるのだが、何たって歌うのは自分よりだいぶ年上のおっさん達なので、古い曲ばっかりで困ったものだ。もちろん譜面はない事はないのだが、もともと楽譜が苦手でなおかつ目が極端に悪いので役には立たなかった。また、おっさん達はたいがい遅らせて歌うのでかなり困ったものだ。おっさん達は「遅らせて歌えば上手く聞こえる。」というとんでもない錯覚をしているのだ。
美空ひばりや森進一などは、遅れて聞こえはするのだが、ちゃんとリズムに乗っていて合わせるところはバッチリ合っているのだ。
ところが時代が変わりカラオケが世の中に登場するや否や一気に仕事が減った。銀座などの高級クラブなど、ただのBGMだけのピアノ弾きなどお払い箱になった。カラオケの登場で全国のバンドマンはかなりの数、仕事を失った。
ところで巷の高級クラブのJAZZの歌伴の現場。それはかなり強力なものだ。まずPIANO TRIO
で2、3曲弾いているとドレスを着た歌のおねーさんが譜面を持って現れる。そして目の前に4、5曲譜面がおかれる。もちろん初見だ。TRIOの演奏が終わると間髪を入れずにカウントが来る。それで初見の譜面をガン見して咄嗟にイントロを作って弾き出すのだ。そこでコケたら全てPIANO弾きの責任になる。どこの現場も曲間は2秒と決まっているのだ。無音状態が店にとって一番まずいのだ。
今、考えるとよくやっていたなぁと思う。まあ、かなりいろんな人たちに怒られてはいたのだが‥‥。
ただ当時救われた言葉があった。みゆきさんに言われたのだが、「イントロはPIANOの責任、エンディングはボーカルの責任。」という一言だ。それからは取り敢えずイントロだけに気合いを入れたのだった。
歌伴は苦手である。