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カセット工場


いくら「俺はプロだ!」と意気込んでいても

仕事が無ければアルバイトだ。

窓拭きは怖くて一日で辞めた。

深夜の駐車場は時給が¥320だった。泣

N通の引越しは、おっさん達の奴隷だった。

まあまあ続いたのは、

洋服屋の店員とカセット工場だ。

洋服屋はやっぱり社員の小間使いだった。

いくら売り上げても時給は¥500だった。

意地悪な社員がいっぱいいたな。

よく売り上げを横取りされた。

カセット工場でも嫌な社員がいっぱいだった。

スチューダーのデッカい録音機で

倍速で録音していく。

もちろん、太く巻いたオープンテープに

カセット何十本分かをいっぺんに録音していく。

俺は奴隷扱いなので

巻きの崩れたオープンテープを修復したり

何レーンかあるスチューダーの列で

滞っている列を手伝ったりさせられた。


また、まだテープを仕込んでない

空のカセットの消去防止爪を

死ぬほど割ったりもしてた。

辛かったのは、目の前が換気扇で

外には吉野家の厨房の換気扇があった事。

いくら大好物でも

四六時中、牛丼の匂いが顔を直撃するのは辛い。

工場は殺伐としていて

今までアルバイトしてた中でも

一番最悪な雰囲気だった。

誰もほとんど喋らず

黙々と仕事をして、休憩には

女子のくせに所構わず

段ボールを敷いて寝てる奴もいた。

そんな中で楽しみは、朝ノートに書いておいた

松、竹、梅の3種類の弁当の時間。

もちろん安い梅弁当を選ぶのだが、

やっぱり奮発すれば中身が歴然と

グレードアップするので

たまぁ〜に竹や松を頼んだ。

それと、工場が後楽園にあり

休憩室が4Fだったので

後楽園球場の隣に東京ドームが

どんどん出来ていくのを上から見れたのは

唯一楽しかった。

ある日、相変わらず牛丼の匂いにまみれながら

カセットの爪折りをしてた。

普通の奴で1日一万五千本、

それを1日四万本折っていた!

かなり自分では満足してたが、

やっぱり何本かはミスが出た。

カセットが割れてしまうのだ。

そこへ偉い上司の社員が現れて

四万本も折っている実績など無視して

ミスの多さだけを叱責した。

普通の奴の2倍以上も折ってれば

ミスもそれなりに増えるのは当たり前なのに‥。


と言う事でカセット工場はその日でサヨナラした。


アルバイトはどんなアルバイトでも

社員に奴隷扱いされる。


が、たまぁ〜に凄く優しい人にもあう。


きつい日常に、突然虹が出たような

なんとも心が救われる一瞬が訪れる。


ああいう人たちが菩薩様なんだろうなぁ。

生まれ変わらなくても、

とっくに修行は終わっているのに

人のためだけにこっちに来てくれた人達。


あっ、思い出した、洋服屋。


最初は池袋の本店だったが、

ロサ会館に飛ばされて

最後は新宿店だった。

ここには嫌ぁ〜な奴は1人だけで

他の社員達はかなり平和だった。

朝のトイレが長ぁ〜い次長の事を

店長は「長ぐそ寛」と呼んでいたな。

ある日、昼過ぎ客が来て

「バンダナありますか?」と店長に聞いた。

バンダナは奥にある。

そしたら店長「無いよぉ〜。

夕方来てねぇ〜。」だって。

お客は帰っちゃった。

そしたら店長ニヤっと笑って

こっちを向いて

「晩だなぁ〜。」だって。


ここが居心地が良かったのは

言うまでもない。


ちゃんちゃん。





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